名古屋高等裁判所金沢支部 昭和24年(う)920号 判決
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(理由)
辯護人齋藤實の控訴趣意第一點の(一)及び第二點の(一)並に第四點の(一)について
(イ)被告人かそれを唯一の證據としては有罪とされることのない刑事訴訟法第三百十九條第二項憲法第三十八條第三項に所謂自白とは當該被告人自身の自白を内容とする供述及び同供述を記載した書面に限るべきは右各條の文理解釋よりするも明白であり從つて共同犯罪事實に關する共犯者自身の自白を内容とする供述は右各條の自白に當らないものと云わなければならぬ。
(ロ)亦被告人の自白を補強し有罪の認定をするに必要な補強證據の範囲は自白の信憑力と相待ち刑事訴訟法第三百十八條による裁判官の自由な心證により自ら定まるべきものであるから必要補強證據の量と價値の問題は所論のような刑事訴訟法第三百十九條第二項に於ける採證法則に關係するものではなく右第三百十八條に於ける證據の證明力に關するものといわなければならぬ。
同第一點の(二)並に第二點の(二)について
(ハ)刑法第六十五條は共同正犯以下の共犯形式一般に適用せらるべきことは同條が共犯の章下に共犯の種類として正犯、敎唆犯、從犯の諸形式を規定し各個の共犯に對する處罰標準を定める諸規定と共に並記せられる形式的觀察にも妥當すると共に共同正犯の成立範囲に關して凡ての正犯が犯罪構成要件を充足する行爲の現實の實現者たることを要件としない意思主義の立場にも適合するものとして是認されなければならない。これ大審院判例の精神とするところであり新憲法に於ける罪刑法定主義の新な要請に對しても何ら抵觸することのない解釋であると信ずるものである。故に原判決が同認定第一の(二)の共同正犯行爲に對し刑法第六十五條を適用したのは正當である。
(二)尚お辯護人は共同正犯には刑法第六十五條を適用すべきではないとの前記主張とは逆に原判決の認定第一の(一)の行爲に對し同判決が刑法第六十五條を適用しなかつたことを攻撃している。原判決が同條規を判文に明記しなかつたことは所論の通りであるが、同所爲に對しては刑法第六十條第二百五十二條第一項を適用して正當な結論を導いておるから其の論理過程に於て當然右刑法第六十五條の適用をも示したと人うべきである。
同第三點について。
(ホ)原判決が判示第一の(1)、(2)の事實に援用する證據によれば福井縣今立地方事務所長藤季が福井縣に對し管下各町村農家が震災に際し炊出しなどに非常供出消費した保有飯米の缺損補顛方を申告し被告人ら同郡出身の縣會議員らに陳情運動に掩護せられ實際の消費量を上回る梗玄米千二百三十四俵の返還交付方の指令を受け其の内中河村に對する分として指定された二百八十六俵の内百十九俵は被告人の献策により右地方事務所の操作用米として藤季所長の手裡に保留せられ残餘の百七十六俵が中河村民に對し適正に配分すべき趣旨をもつて中村利作に引渡された事實、被告人は同村出身の縣會議員として右返還米の獲得に盡力したことの報酬名下に右中河村に返還を指令された玄米の一部をほしいまゝに自己に領得することを企て右中村村長に要求して同人と意思疏通の上同人の占有にかかる前記百七十六俵の内から五十俵を右藤季に要求して同人と意思疏通の上先に同人に操作米として保留せしめた前記百十九俵の内から五十五俵を夫々自己に交付させもつて右返還米配分の委託趣旨に反して之を橫領した事實を認めることが出來る。
辯護人は右藤季又は中村利作が炊出しに要した實際の數量を越えた申告により縣廳を欺罔し其の差額を騙取したものであり、從つて被告人の所爲は賍物の事後處分に關する收受に過ぎないと主張するので考察を加えるに今立郡下町村に對し實際に震災の爲め消費された數量を越える返還米の交付指令のあつたことは形式的には管内食糧行政を担當する藤季所長の申告による外實質的には關係町村出身の被告人以下縣會議員らの側面的陳情運動の然らしめた結果であることは前記認定の通りであるから同事務所長個人が其の差額を自己又は第三者の爲め不法領得する意圖をもつて行動したものとは到底認めることが出來ず右は管下町村農家の保有食糧救濟を主眼とする同所長の行政上の目的と地元町村の地方的利益に貢献し選擧民の歓心に訴えんとする被告人以下出身議員の政治的目的とが相結合し知事の裁量權を動かした所産であると認めるのを妥當とする。若し然らずして辯護人所論の如く藤季事務所長が差額の不法領得を目的として知事を欺罔し本件玄米を騙取したりとすれば側面より之を掩護し政治的手腕をもつて奏功せしめた被告人ら縣會議員の行爲は右事務所長と通謀した詐欺犯罪の共犯と認めざるを得ないのであり、かかる事物の觀察方法は徒らに事案を繁雜にし法律現象や證據關係を無用に紛糾混亂せしめるのみか却つて被告人の不利益となり記録全般に現われている證據資料の實質にも副わず且つ廣く刑事訴訟法の合理的な眞實發見の目的にも合致するところでないと信ずる。
同第五點について
(ヘ)原審はその第一回公判期日に於ける證據調の段階の最初に司法警察員及び檢察官の被告人に對する供述調書について證據調を行つたことは所論の通りであるが、右供述調書の各内容を仔細に吟味した結果と第一回公判期日の冐頭に於ける起訴状朗讀に次ぐ被告人の被告事件に對する陳述の内容とを對比檢討すれば彼比殆んど其の趣旨を同一にすることを發見しうるから原審の右手續の違背は毫も原判決の結果に影響を及ぼすものとは認められない。よつて本論旨も理由がない。
(ト)しかし職權をもつて按ずるに
原判決は判示第二の(1)(2)に於て判示梗玄米を不當に高價な代金をもつて販賣した旨の訴因事實を認定した上罰條として物價統制令第九條の二第三十四條を適用している。然し賣買價額が不當に高價な故をもつて物價統制令第九條の二に牴觸し同法第三十四條該當の犯罪を構成する爲には當該売買に適用せられる統制額の存しないことを要する。蓋し統制額の定めある場合には同令第三十三條該當の犯罪を構成すべく右二個の犯罪は適用せらるべき統制額の有無により二者擇一的に其の成否を決定さるべき關係にあることは犯罪成立の基準を一は統制額に置き他は適正價額に求め各當該基準に違反する行爲に對し夫々法定刑の内容を異にする各別の罰條を對立的に配置しているからである。